2025-04-09

「薔薇刑」に刻まれた美と死:細江英公と三島由紀夫

日本を代表する写真家、細江英公(ほそえ・えいこう)氏が2024年9月に91歳で逝去しました。細江氏の作品の中でも、今なお世界中のアートファンや研究者に語り継がれているのが、作家・三島由紀夫を被写体にした写真集『薔薇刑』(1963年)です。この作品は、日本の戦後写真史においても異彩を放ち、その革新性と美的完成度によって、現在でも圧倒的な存在感を誇っています。

『薔薇刑』は、三島氏の自邸をはじめとするさまざまな場所で撮影されました。筋骨隆々とした裸体の三島氏にゴムホースを巻き付けたり、白布に包まれた姿を収めたりと、視覚的に非常に強烈なイメージが展開されています。耽美と暴力、生と死、宗教的象徴と性のイメージが入り混じる構成は、三島氏自身の文学世界とも深く通じており、二人の芸術家の美意識が奇跡的に融合した作品と言えるでしょう。

当時の日本社会において、男性の肉体をここまで露骨かつ神聖に扱った写真作品はほとんど存在していませんでした。『薔薇刑』は、写真というメディアに対する既成概念を覆す、画期的な試みでもあったのです。装丁はグラフィックデザイナーの杉浦康平氏が手がけ、限定1500部で発行された初版は、アートブックとしても高く評価されています。

三島由紀夫氏は、この撮影について「生涯で最も精神的に満たされた時間のひとつ」と語ったとされており、細江氏との信頼関係の深さがうかがえます。また、この写真集の刊行から7年後に三島氏が割腹自決という劇的な最期を遂げたこともあり、『薔薇刑』は彼の“死”を予感させるような、神秘的な重みを持つ作品としても捉えられています。

細江英公氏は生涯を通じて、「人間とは何か」というテーマを写真で追求し続けました。『薔薇刑』はその探究のひとつの到達点であり、観る者の想像力と感性を激しく揺さぶる、永遠の問題作であると言えます。細江氏の逝去は大きな損失ですが、その芸術は今もなお私たちの中に生き続けています。

【日本古書買取センターからのお知らせ】
読まなくなった古本や、過去に購入したDVD・CD・ゲームなどを有効活用しませんか?日本古書買取センターでは、簡単で便利な宅配買取サービスを提供しています。お手持ちの本を整理して、新しいスペースを作りましょう。ぜひこの機会にご利用ください。詳しくはこちら
関連記事