ホルスト《惑星》の知られざる真実
イギリスの作曲家グスターヴ・ホルストによる組曲《惑星》は、今日では映画音楽にも多大な影響を与えた名作として知られていますが、その誕生には意外な背景があります。実はホルスト自身、天文学にはそれほど興味がなく、インスピレーションの源となったのは「占星術」でした。楽章の副題に「〜をもたらす者」とあるのも、その証拠です。
特に第1楽章「火星、戦争をもたらす者」は、まるで戦場を描いたかのような凄まじい迫力を持っています。しかしホルストがこの曲を作曲したのは、第一次世界大戦が始まる前年の1914年初頭のことでした。あまりに的確に戦争の雰囲気を捉えていたため、この楽章は「予言的」とさえ評されました。
当時ホルストはロンドン近郊の学校で音楽教師をしていましたが、神経を病み、右手のしびれにも悩まされており、ピアノの演奏や指揮が困難な状態でした。そうした苦悩のなかで書かれたのが《惑星》です。ある意味では、社会や人生への“逃避”としての創作だったのかもしれません。ホルスト自身は有名になることを好まず、《惑星》が評判になると「もう演奏しないでほしい」とまで語ったそうです。
とりわけ興味深いのが、最後の楽章「海王星」の終わり方です。オーケストラの音が徐々に消えていき、舞台裏の女声合唱だけが残ります。この演出は「消えゆく宇宙」を象徴しており、ホルストが「無音の余韻」にこだわった初期の例として知られています。演奏が終わっても指揮者はすぐに腕を下ろさず、数十秒の沈黙を保ちます。その沈黙こそが、この作品の一部なのです。

《惑星》は今日、映画音楽――特に『スター・ウォーズ』や『2001年宇宙の旅』など――に多大な影響を与えた作品として評価されていますが、ホルスト自身はこの成功に甘んじることなく、その後はより実験的な作風へと向かいました。世俗的な名声から距離を置きながら、宇宙や精神世界を音楽で描こうとした作曲家の静かな野心が、この作品には息づいているのです。
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